御成「タケル殿、ご無事でしたか!」
タケル「御成……どうしたの、それ?」
御成「これは、その……出来心と言いますか……」
夢の世界から帰ってきたタケルが真っ先に目にしたのは、御成のプリティたぬきメイク。思わず吹き出すタケルに、黙黙と前回の素敵おヒゲメイク(by御成)を落としていたアランが、憮然としたまま答える。
アラン「気にするな。仕置きをしただけだ」
目には目を。歯には歯を。素敵メイクには素敵メイクを(byハムラビ法典)。王子様の仕返しは意外と妥当で真っ当であった。仮面ライダーゴースト第35話感想。アラン様、今まで眼魔世界にいて芸術とか絵とかに無縁だったわりには、センスのいいメイクだと思う。
グリム兄弟大喧嘩、仲直り編。さらにみんな大好きコスプレ回、女装回消化。全体に明るいトーンで「楽しいと思う気持ち」はなにかという問いを、無難な結論にまとめたとおもいきや、最後の最後に、死んでいる身であるタケルの切なさをぐっと際立たせる演出に持っていきました。お見事。
*ガンマイザーとムゲン魂
ムゲン魂にやられたガンマイザーの復活の兆しは、相変わらずまったくない。15枚のうち、2枚のパネルは欠けたまま。液体の性質を持つリキッドガンマイザーはアデルの命を受けて、イゴールの作り出した夢の世界の中でムゲン魂にまとわりつき、分析をする。しかし結論は極めて曖昧なもの。
「対象ハ 測定不能 人間ヲ 超エタ存在デス」
「危険ナ 存在です 消去ノ 御命令ヲ」
「消去ノ 御命令ヲ」
しきりと、命令を促すようアデルに訴え始めるガンマイザー。ガンマイザーは『大帝』の意思に服従する感情のない存在ではなかったのか?
「消去ヲ 開始シマス」
アデル「……勝手な真似を」
ついにはアデルの命令を待たず、ガンマイザー13体が総出でムゲン魂の消去に人間界へ向かう。ガンマイザー達は、ムゲン魂をよほど脅威に感じているということか。
アラン「あいつは……タケルが斃したガンマイザー」
リキッドガンマイザーは、液体でスペリオル眼魔を包んでファイヤーガンマイザーの能力を擬態させ、ネクロム、スペクターに容赦ない攻撃を浴びせる。残った12体のガンマイザーは宙に浮き、しきりに命令を繰り返し、その指示でリキッドガンマイザーと擬態ファイヤーガンマイザーが動く。
が、あと少しでネクロムとスペクターを消去できるというところで、アカリとジロウ教授を助けに夢の世界へ行っていたタケルが、駆けつけた。
「対象ヲ 確認 脅威判定 無限大 消去 排除」
しかし、ムゲン魂の前にリキッドガンマイザー、ファイヤーガンマイザーの攻撃はまったく効かず、ファイヤーガンマイザーの擬態が解けたスペリオルは爆発。リキッドガンマイザーもパネルに戻った状態で斃された。
残るガンマイザーはあと12体。
いままでの英雄眼魂の集合体であるグレイトフル魂、ディープ・スペクター魂は、強かったとはいえ、もとは仙人やイーディス、龍や五十嵐達が作った人工の眼魂に元人間(ディープ・スペクターの由来はわからんけど)の魂を憑依させたもの。ガンマイザーも分析することで、それらを凌駕する力を身につけることができた。
ところが、ムゲン眼魂はみんなのタケルを想う気持ちが生み出した、技術や科学が介在する余地のない存在(や、そもそも魂だって、そーだろ?って言われたらそれまでですが^^;)。しかも、その原動力はどうやらとても曖昧なもの。
アカリ「あの時の光……ひょっとして、光のライダーって感情を力に戦うライダーってこと?」
タケルが感情の高まりを感じた時に、ふんわり体が光るようになったのを見て、アカリはムゲン魂をそのように分析した。
分析、模倣、擬態の得意なガンマイザーといえど、そんな曖昧な存在を前に分析はどうやら不能。つぎつぎとガンマイザーが欠けていく事態が生じたことで、感情のなさそうな彼らにも、焦りが出てきているのでしょうか?ガンマイザーが徐々にアデルの制御の手を離れ始めています。
そして、いままで女性の声であったガンマイザーの声が男性の声に変化しています。相変わらず感情も抑揚もないけれど。もしかして、学習、進化して、ガンマイザーは姿だけでなくアデルの声も擬態し始めたということかしら?
ムゲン魂の感情を原動力とする特性を考えると、次にガンマイザーが擬態するのはアデルの感情なのか? となると、ガンマイザーを操っているつもりのアデルの立場はどうなる?あらー、アデルお兄ちゃまの行く末が心配になってきたぞー。
*タケルとグリム兄弟と片桐兄弟
前回のお話はこちら。
というわけで、タケルはイゴールの思惑通り、夢の世界の中でムゲン眼魂の力を披露。人質になった赤リとユウイチ教授をあっという間に救い出し、イゴールをはじめとする眼魔達をあっという間に退治。しかし、リキッドタイプのガンマイザーに体をリサーチされて逃げられた。
アカリとユウイチ教授はその様子を物陰から見守っていたが、そんなふたりをさらに物陰から見守る人物が。
ジロウ「あっ、やっべ」
アカリ「あっ!」
ユウイチ「ジロウ!」
アカリに見咎められて、慌てて逃げ出すジロウ教授をアカリは追っかけて行ってしまう。ユウイチ教授も後を追おうとするが、足をくじいてしまい、ふたりを見失った。タケルは、とりあえずユウイチ教授と共に、夢の世界を一時離脱する。しかし、離脱したタケルの前にイゴールが現れた。
イゴール「誰を倒したんですか?あちらの世界で私を消去する事はできませんよ」
なるほど、夢の世界の中での虚像を倒しても、意味がないということか。安全な方法でムゲン魂のデータをとることができたイゴールは満足気に笑うと、まだ意識が夢の世界に行ったままのアカリとジロウの肉体を人質として持ち去ってしまう。
アラン「助けに行ったところで、自分が帰りたいと思わない限りこっちには戻って来られないだろう」
マコト「それに体が敵の手に渡っている事を考えれば、奴らからの連絡を待つしかない」
イゴールとアカリ、ジロウの肉体の居場所を突き止めない限り、手も足も出ない。やきもきしながら事態の進展を待つユウイチ教授に、タケルは声をかけた。
タケル「ユウイチ教授……」
ユウイチ「あいつは、やればできるのに。いつも逃げるんだ」
タケル「ユウイチ教授はジロウ教授のこと、どう思ってるんですか?」
ユウイチ「あいつは昔から諦めが早かった。私と違って素晴らしい発想力を持っているのに。もっと科学に没頭できていれば……」
ユウイチ教授はとつとつとジロウ教授と気持ちがすれ違った原因を語る。ふたりは共同研究を続けていたが、実験の失敗が続き、ジロウ教授が音を上げた。
ジロウ『うーん……ダメだ』
ユウイチ『どうした?』
ジロウ『こうも上手く行かないと、気が滅入る。昔は失敗しても楽しかった……』
ユウイチ『愚痴をこぼしてる暇があるなら頭を使え! 手を動かせ! 成功は多くの失敗の上に成り立つものだ!』
弱音を吐くジロウ教授を容赦なく怒鳴りつけたユウイチ教授。自分より才能があるくせに、すぐに弱音を吐く弟がもどかしくてしょうがない。いらいらしながら自分の正当性を、タケルにも訴える。
ユウイチ「科学は、楽しいとか楽しくないとかいう物差しでやるものじゃないんだ!」
タケルは首をかしげた。アカリはいつも、科学の実験や研究をやることが楽しくて仕方が無い様子。なにしろアカリは常にバーナーを持ち歩いているほどの女。しかしユウイチ教授は、地道な基礎研究を続けて結果を出すことがまるで苦行であるかのように話す。科学を研究するって、ほんとうにそんなに苦しいことなのか?
タケル「科学って、楽しくないんですか?」
ユウイチ「え?」
一方、夢の世界の中。アカリはジロウ教授を漸くとっつかまえ、真っ先に感じた疑問をぶつけた。
アカリ「ちょっと待って! 待ってください! 聞きたい事があるんです! この世界では、自分が楽しいって思った事が形になります……。教授は、どうして虫取りなんですか?……科学じゃないんですか?」」
ジロウ「……楽しくなくなってしまったんだ……」
いままでこどもに戻って、現実に戻りたがらなかったジロウ教授。自分のゼミの学生の真摯な目に問いつめられて、苦しい心の内をとつとつと打ち明けようとする。
ジロウ「……私は、兄さんみたいにがむしゃらに科学に没頭できるすごい人間じゃない」
いつも真面目にストイックに研究に向き合うユウイチに対して、ジロウはコンプレックスを感じていたよう。
ユウイチとジロウがそれぞれの悩みを吐露している間に、イゴールは再びアデルの命を受けて、タケル達をふたたび夢の世界へ誘い込む準備を整え、アカリとジロウの体の在処を教えてきた。
あきらかに罠だけれど、ジロウ教授が現実世界へ戻れなくなるリミットが迫っている以上、誘いに応じるしかない。夢の世界と現実世界で、タケル達の戦力を分断して、夢の世界に入ってきたタケルとアカリ、御成は前回奪ったグリム眼魂を装着したイゴールが、アカリ達の体を守るために現実世界に残ったアランとマコトはガンマイザーがそれぞれ始末する……というのが、イゴールの筋書き。
が、グリム眼魂も一筋縄ではいかない。イゴールが眼魂を装着した途端、イゴールの夢の世界はグリム童話の世界に早変わり。こうしてみると、童話の主人公って意外とオンナノコばかりなのね。タケルはあかずきん、御成はラプンツェル、ユウイチ教授はシンデレラに早変わり。タケルはなんかすっごく可愛く仕上がっていますが、ラプンツェルは衣装間違えたヤンキー姉ちゃん、シンデレラにいたっては……うん、ガラスの靴も痛いだろうけど、なんかイタいね、全体的に。
さらには、七人の小人やらなにやらに変身した眼魔たちに追っかけられて、わあわあやってるうちに白雪姫アカリとカエルの王子様ジロウにやっと遭遇。アカリ……ふつうにリボンとか結べばかわいいはずなのに、何故そこでりんごを被るのか、謎だわ。
ユウイチ「早く帰るぞ!そうでないと、ここから出られなくなる」
ジロウ「いや、その格好……全然説得力ないんだけど」
ユウイチ「誰のためにこんな格好してると思ってるんだ!!」
ジロウ「ここから帰れない?こんな楽しい世界だったら、願ったりだね!もう、科学は楽しくないし……」
ふたりの言い争いにタケルが口を挟む。さきほど、ユウイチに答えをききそびれた疑問を、改めてふたりにぶつけた。
タケル「科学は本当に楽しくないんですか?」
答えに詰まるユウイチとジロウ。すると今度はアカリが口を開いた。
アカリ「昔、おふたりで子どもたちを集めて、科学教室を開いていたのを覚えていますか?その時に、……ひとりの女の子がおふたりに科学の楽しさを教えてもらったんです」
ジロウ「ひょっとして……」
アカリ「はい。本当に本当に、楽しかったんです!だから私、教授たちがいる大学で科学を勉強したいって思ったんです!」
ユウイチとジロウが静電気実験を行うのを、大勢の子供達と一緒にきらきらした目でみつめる幼い頃のアカリ。
タケル「みんな、本当にいい笑顔。楽しいって、こういう事なんだ……」
楽しいという感情が高まったタケルの体がふわっと発光した。タケルはその記憶をジロウ達とも共有する。
タケル「楽しい時間を一緒に味わえる人がいるって、本当に素敵な事だと思うんです」
ジロウ「……確かに楽しかったなあ。子どもたちの笑顔を見ることが」
ユウイチ「ああ……心から、科学を楽しいと思えた」
が、イゴールが割って入った。
イゴール「何なんですか、これ? こんな茶番、虫酸が走ります!」
いや……、みんながわちゃわちゃしている間に、さっさと来て倒せよとも思いましたが。が、教授たちの問題に一段落ついたタケルは、イゴールをみるなり、ムゲン魂を取り出して変身。
タケル「楽しさは人を繋ぎ、笑顔が笑顔を生む。仲間がいれば、楽しさは無限に広がるんだ!」
イゴールはタケルに襲いかかろうとするも、タケルの楽しいという気持ちに共鳴したか、グリム眼魂がイゴールのもとからころりと出奔。元の状態に戻ったイゴールは、タケルにあっさり倒された。
タケルの手元に戻ってきたグリム兄弟は、タケルを眼魂の中に招いた。
グリム兄「最初に童話を集めようと思った理由を思い出した。弟に聞かせるためだったな」
タケル「そうだったんだ」
グリム弟「兄さんの話、すごく楽しかったんだ!それに、兄さんも話してる時、本当に楽しそうだった」
グリム兄「楽しさは人を繋ぐ……無限に広がるか」
グリムの兄と弟のゴーストはうなずきあうと、再び融合してひとりのゴーストに戻った。
グリム兄・弟「「その通りだな。見事だ」」
タケルを介して、グリム兄弟は見事仲直り。片桐兄弟も仲直りの握手を。
すべて解決した後、片桐兄弟はふたたび子供達を相手に、科学教室を開いた。楽しげに実験に参加するこどもたちに混じって、実験を手伝う大天空寺の面々が。その中で、完全にこどもモードで、しんっけんにフラスコから飛び出す泡を見つめる深海兄妹とアラン様が、可愛らしい。
タケルは楽しそうな皆の顔をみて、またふんわり光った。
タケル「仲間がいれば、楽しさは無限に広がる……か」
タケルは昔、龍やアカリ、マコトやカノン達と楽しんだ手巻き寿司パーティーのことを思い出す。海苔に酢飯をのっけて、好きな具を組み合わせて巻いていく。いれすぎて、酢飯がはみ出したりしちゃったけど、自分たちで作る手巻き寿司はすごく美味しくて、楽しかった。皆が笑っていた。
生身の体なら、おなかは空く。ご飯をたべることができる。しかし、今の魂だけの状態では……。タケルは生きている皆と、死んでいる自分の差を感じて、少し寂しくなった。
タケル「いつか、もう一度……みんなとご飯が食べられたらいいな」
ゴーストの世界では、アランやタケルを通して、ゴーストであることの利点はよく描かれています。たとえば、斬られても死なないとか、生きている人間にはみえない眼魔達が見えるとか、壁をすりぬけられるとか、透明になれるとか、不老不死であるとか(タケルの場合は体がないため、99日制限がついていますが)。
しかし、死んでいる、もしくは生身の体でないことのデメリットは、ほとんど描かれてこなかったんですね。
アランはふみ婆やマコトとの交流を通して、ゴーストの体であるより生身の体であることの良さを選ぶことになります。でも最初アランは、食べないとお腹が空くことを煩わしいと思っていたし、生身になったことで、初めて死への恐怖を実感していました。どちらかというと生身の体のデメリットが強調されていました。
のちにアランは、ふみ婆のたこ焼きを食べる喜びを得ることになりますが、もともとアランは食べなくてもOKなところから出発しているので、食べる喜びを得たといっても、そんな当たり前のことのどこがいいのか、ちょっと実感としては薄かったように感じます。
ところが今回、タケルの最後のセリフを通じて、皆がもっているそんな当たり前の楽しさ、ごはんを皆で食べて美味しいと感じることは、死んでしまったらできないんだと見せつけてくれました。当たり前の小さな幸福感を失った時の大きな喪失感。失ってみて初めてわかる痛み。
食事という人間の根本的な営みを通じて、『死』というものの恐ろしさ、寂しさがやっと実感として伝わってきた気がします。このことはタケルの意識を生へ向かわせる大きな原動力になるはず。この調子でタケルには生きようとがっつり足掻いていって欲しいです。